GymAwareがつないだオリンピックへの道
2020/06/30
ユーザーストーリー:マッケンタイア兄弟
GymAwareが繋いだオリンピックへの道
オーストラリアの投擲競技コーチ、アンガス・マッケンタイア氏が取り入れたVBT(Velocity Based Training)に積極的に取り組んだ選手たちは、短期間のトレーニングで大幅な能力向上を示しました。中でも、コーチの弟でありオリンピック代表候補のキャメロン・マッケンタイアは、GymAwareを使用したVBTプログラムの導入によって、やり投の自己記録を一気に5 mも伸ばすという大きな進歩を遂げました。
キャメロンがそれまでの自己記録を大きく上回る78.75mの個人記録を叩き出したのは2019年12月、その勢いに乗って翌年2月には、ニュージーランドのオークランドで開催された国際大会では78.63mを投げ優勝を遂げました。この大きな成長の背景にあったのは、キャメロンが自己新記録を出した2019年12月のわずか2か月前にアンガスコーチがGymAwareをバーに取り付けたことにあります。
現在、キャメロンが取り組んでいるウエイトレーニングの主要種目の挙上速度と使用重量はどちらも伸び続けており、2020年も競技成績のさらなる向上が期待されています。特に注目すべきは、やり投の鍵となる投擲時の腕の最大振り出し速度が2020年1月の測定で29 m/sを記録したことであり、これは2019年の世界大会で表彰台に上がった選手と同じ速度です。
アンガスコーチはこの間のキャメロンの競技成績を大変喜んでいますが、それに満足することなく、現在、さらなる長期的な成長を遂げさせることに集中しています。
以下はアンガスコーチに対するインタビューをお読みください。
初めてVBTを知ったときのことを教えてください。また、VBTが投擲、特にやり投げにとって重要だとお考えになる理由をご説明いただけますか?
私が初めてVBTに出会ったのは2012年頃でしたが、その時はまだVBTのコンセプトがいかに有益で、それを現場でどのように適用すればよいかについてはよく理解できていませんでした。しかし、 私の指導者としてのモットーは、選手の能力を最大限に向上させるために、コーチは常に選手達よりも10歩先を行く、というものですので、すぐにVBTについての勉強を開始しました。
2015年から本格的な勉強を開始し、その後4シーズンにわたって様々な人との議論を重ね、指導のコンセプトに変更を加えたりそれを拡張したりしました。 2015年、私の指導する選手達は新たなレベルに到達しつつありましたが、 VBTについての私の理解が深まったことによって、より優れたトレーニングプログラムを適用することができ、パフォーマンスを確実に最大化し、さらに向上させることができるようになりました。
投擲には大きな力の発揮が要求され、強くなればなるほどより遠くへ投げることができます。力を向上させることで、投擲の潜在能力は高まります。VBTプログラムは力の開発にとって欠かせないものです。
力は、質量x加速度によって決まります。ですから質量であるやりに加わる加速度、つまりスピードのプラスの変化が大きければ大きいほど、大きな力を発揮することができ、その結果、パフォーマンスは向上します。特にやり投は爆発的パワー発揮に依存しており、VBTをプログラムに適用することはパフォーマンスの向上にとって不可欠です。この間、私はVBTの導入が信じられないほど成功しているのを見てきました。
VBTプログラムを開発し実践していく上で、学ばなければならなかったこと、試行錯誤されたこと、あるいは変化しなければならなかったことはありましたか?
はい、ありました!
私は多くのアスリートに対して指導していく中で多くの試行錯誤を長い間繰り返してきました。 その過程で、コーチ、スポーツバイオメカニクスのスタッフ、アスリートに助言を求め、彼らがどのようなVBTプログラムを用い実行しているかを学ぶために、さまざまなスポーツに関する情報収集に没頭しました。
私は他の人々と議論することが好きなので、 VBTプログラムを適用するためにも多くの異なる方法に接し学びました。 それらひとつひとつは全て、選手の特定の目標や結果を達成するために、つまり目的によって異なる方法を採用していることがわかりました。ですから、VBTを理解するには、多用性を理解することが本当に重要だと思っています。
私が理解しなければならなかったことの中で最も重要だと思った点は、VBTの目的とそれによって何を達成したいのか、ということです。やり投選手にやりを遠くに投げさせたいのか、400mランナーに対して45秒間ペースを落とさない能力を身に付けさせたいのか、それとも、ラグビーで相手選手を3m後方に押し戻せるだけのパワフルなコンタクトができるようになってほしいのか、といったことです。
トレーニングの目的が決まれば、様々な方法でVBTを適用することができます。VBTは、競技特異的であり、一般的に言って、最大の競技成績を納めるための能力開発が必要となる競技シーズンに近い時期か、競技シーズン中に取り組むことになります。
VBTとストレングストレーニングにおけるその位置づけを明確にできれば、さまざまな方法を試しながらそれを発展させて行くことができます。その結果、トレーニングの成果が得られたことが、私の指導に対する自信につながりました。
私が陸上競技で好きなところは、結果が客観的であるという点です。つまり、自己新記録を出せたか出せなかったのかという点です。ですから、VBTに取り組んだ結果、選手のパワーが向上したということはそれだけで成功であり、その結果パフォーマンスに確実な変化が期待されるわけです。
数年前、VBTプログラムの一部に簡単な変更を加えました。その結果パフォーマンスに大きな効果を得ることができました。それまでは、例えば60㎏のバーベルによるスピードスクワットのように、フリーウェイトだけでVBTを実施していたのですが、筋力を向上させるための抵抗を微調整できるというバンドの使われ方を知り、それを見たり試したりする中で、こう考えたのです。つまり、最小限のウェイトにバンドを付けて、選手にできるだけ速く挙上するように指示します。すると、バンドの引き戻しのタイミングも速くなります。その結果、選手はそのバーのスピードに素早く反応しなければならず、その結果、動作全体がより速くなる、と。
同様にベンチプレスも変更しました。50㎏のバーベルをほとんど天井に向かって投げるように挙上すると、胸に引き戻すためには挙上の最終局面でバーを減速させなければなりません。その代わりにバーとバンドで合わせて50㎏になるようにしておいて素早く挙上すると、バンドの弾性でバーが高速で引き戻されますから、それに素早く反応して受止め、再び高速で挙上する必要が生じます。このコンセプトは導入以来ずっと続けられています。
キャメロンのプログラムに最初にVBTを導入したとき、どのようなステップを踏みましたか、そして彼はその新しい取り組みにどのように向き合いましたか?
キャメロンは長年にわたってVBTを実践してきました。 2014/15シーズン、彼は15歳で73m(700g)を投げ、オーストラリア代表として世界ユース選手権に出場しました。 それは彼が筋力トレーニングに取り組み始めた年であり、筋力トレーニングがパフォーマンスの向上にどのようにつながるかについて私が本当に理解した年でもありました。
この段階では、メディシンボール投げ、プライオメトリクス、ウエイトの投射は常に彼のプログラムの一部でした。ウエイトルームで最初に行ったVBTは、最小限の重量で行うスクワットジャンプ(3sets x 6reps)、スピードスクワットとスピードベンチプレス(3sets x 8reps)でした。
キャメロンがウエイトルームで成長するにつれて、トレーニングはシーズンごとにより高度化していきました。やり投げ動作にあわせたオリンピックリフティングのバリエーションを学び、それを投擲動作に適用できるようさらに高いパワー発揮で実施できるようにしました。負荷を掛けたスクワット、ジャンプスクワット、スピードスクワットをそれまでと同じ量で実施し、ハングスナッチやハングクリーンなどのエクササイズは時間制限の中で実施しました。(6秒以内に4Reps。)
直近の4年間、キャメロンはやり投げに向けた少数の特異的な種目にVBTを絞っています。バンドを付けて行う高速のスクワット、スプリットジャンプ、高速V字シットアップ、高速プルダウンなどです。これらのエクササイズとともに、約30〜50%1RMにまで負荷を軽くして、パワーの向上を追求する主要種目(スナッチ、クリーン、ジャーク)のエクササイズを行いました。
2019年10月には、バーベルの重量(kg)ではなく、最大速度(m/s)を用いて主要種目における動作速度に焦点を当てるという新しいトレーニングに取り組むことにしました。
そのため、最大速度をチェックできるGymAwareを導入しました。現在は、以前のように、例えばスプリットスナッチで100kgを目指したり1RM重量の更新を目指したりする代わりに、全レップで最大速度を発揮することを目指すようになりました。つまり、パワー出力の改善が目的となったのです。
キャメロンには、どんな重量を用いるときでも、セット内はすべて最大速度で挙上するように指示していました。その目的は常に最大速度を追求することでピーク速度を増加させることでした。
このやり方でトレーニングを行った結果、キャメロンは明らかにより強くなりました。 毎週、バーの重量を増やしていたのですが、同時に挙上速度とパワー出力も向上していきました。実際、彼は1RMの65〜70%で2.3 m/s以上の速度で挙上できるようになりました。 そして、このトレーニングの6週間後、キャメロンは自己ベストの78.75mを投げたのです。その時の投擲は実に速く爆発的に見えたものです。このシーズンの進歩は、その後のキャメロンのストレングス&コンディショニングを構成するための重要な要素になりました。
キャメロンはすべてのVBT種目で挙上速度と重量を向上させたのですが、コロナの影響で今シーズンは突然幕を閉じてしまいました。ただ、面白いことに、シーズン終了後、彼の測定を行ったところ、VBTトレーニングを実行していただけなのにその裏側で1RMも向上していたことがわかったのです。 VBTによるこの最大筋力の向上には非常に興奮しています。
なぜストレングストレーニングのプログラムに変更を加えたのですか?
やり投げは爆発的特性と絶対的パワーに依存する、という特性を考慮して、パワー開発に対してより重点を置いたからです。つまり、プレシーズン中の最大筋力トレーニングに対して、シーズン全体を通した力強く速い動きを改善することにしたのです。
キャメロンの場合、最大筋力は他のやり投げの選手に比べて決して大きいというわけではありません。しかし、動作速度とパワー発揮という点で他の選手よりも秀でていました。重いウエイトを持ち上げること、例えば、200kgスクワットや150kgクリーンなどは彼の強みではありません。最大挙上重量を増やすために努力し続けることもできたかもしれません。しかし、この種のトレーニングはキャメロン自身も不得意で、さらにトレーニング中の動きが遅くなり、やり投のパフォーマンス改善との関連性も低いため、思い切ったトレーニングの変更が必要だと思ったのです。
最大筋力向上のトレーニングが、パワー発揮のポテンシャルを高めるということは認識していましたが、キャメロンのやり投げのパフォーマンスをさらに向上させるためには、何がより重要であるかを精査しなければならない段階になっていました。それまでは、最大筋力向上のトレーニングをして、より強いアスリートになれば、それだけでより良いパフォーマンスを発揮できると考えていたのですが、実際は、キャメロンにとっては、強くなるというよりも、よりパワフルなアスリートになる必要があったわけです。
測定デバイスを使わずにVBTをコンセプトだけで実践するのではなく、実際にGymAwareを使うようになってから何が変わりましたか?
2019年10月までは、測定デバイスを使わずにVBTの考え方に基づいたトレーニングを行っていただけでしたので、GymAwareを使用し始めたことによってトレーニングのパフォーマンスが肉体的にも精神的にも大きく変化しました。 それまでずっと頼っていたスピードの「感覚」から決別し、常に目の前に客観的なフィードバックが得られるようになったことは、日常的なトレーニングにおいて常に向上しようという彼の強いモチベーションをさらに喚起することになりました。
全レップを測定してトレーニング負荷をモニタリングし、セッション毎に挙上速度とパワー発揮の改善度合いがチェックされました。フィードバックによって、さらに10%上げたい、といった強い気持ちでレーニンングに取り組んでいる姿を見ることができました。これらは、GymAwareテクノロジーなしには実現できませんでした。「感覚」だけではこうしたフィードバックによる効果は得られなかったと思います。 GymAwareによってトレーニングセッションに本当のハイパフォーマンス環境がもたらされたということができます。
コーチの眼から見て、VBTをより簡単に実行するためのGymAwareの機能は何でしょう?
GymAwareで測定することで、VBTの管理と記録がやりやすくなりました。我々は、ピーク速度(m/s)とピークパワー(W)を使用していますが、さらに目標設定ダイヤルを使用して、すべての種目における挙上スピードのベスト記録または各セットで示されるピーク速度の80%以上を発揮することを目標にしています。これによってパフォーマンスの波を正確に知ることができるようになり、疲労のモニタリングも簡単にできるようになりました。
挙上速度がピーク値の80%を下回った場合、キャメロンが疲労しているということがわかり、それに応じて即座にプログラムを変更することができます。
また、特定の関節角度で発揮できる筋力に焦点を当てたバックスクワット、ブルガリアンスクワット、プルオーバーなどの種目では、Dipつまり沈み込みの深さをGymAwareでチェックしています。
キャメロンはどの種目に焦点を当てていますか?そして彼はどのような進歩を遂げましたか?これらのプログラムの進め方はどのように変わりましたか?
キャメロンが主に取り組んでいる種目は、やり投げの動作にとって特異的なオリンピックリフティング(クリーン、スナッチ、ジャーク)のバリエーション、すなわち、スプリットスナッチ、スプリットクリーン、そしてスプリットバックジャークです。私はこれらをやり投げ選手に処方する3つの主要種目としています。この他にも、さまざまなプルオーバーとスクワットのバリエーション(バック、ブルガリアン、スプリット、ジャンプ、バンドなど)が主要種目になります。
GymAwareで最大スピードが分かるようになったので、主要種目に対するプログラムを少し変えました。トレーニングで達成したい目的と種目に応じて常に、3レップから6レップの範囲で行うようにしたのです。
ピークの状態にあった1月には、いくつかの種目においてピラミッド負荷を導入し、負荷を増やした時に速度を維持できるかどうかを見ました。このやり方は非常にうまくいきました。
3レップといっても、決してかつてのような80%1RMの3レップではありません。高速で挙上できる範囲での最も重い重量での3レップです。それが6レップ×4セットであろうと、3レップ×5セットであろうと、またはピラミッド形式で負荷を徐々に増やしながら行う2レップ×5セットのいずれであっても、重量とは関係なく、バーをできるだけ速く、つまり2.5 m/s以上で挙上することに集中するのです。目標は、そのセットで示されるピーク速度よりも20%以上速度を低下させないようにすることで、「1RMの30-60%で」といった考え方ではなく、プログラムで決めた反復回数でピーク速度を改善させていくことに集中しました。
種目自体も、より速いスピードが出せるように変更しました。つまり、スプリットスナッチもそれまで行っていた床からではなく、さらに速いスピードが出せるようにハングポジションからに変更しました。さらに、より競技特異的な力発揮になるように、上体が立った姿勢で行うようにしました。
キャメロンのチャレンジは、力x速度曲線を基にしたものでもあります。現在、ハングスプリットスナッチを6秒間に6レップ、これを4セット行っていますが、その際のピーク速度のベスト記録は3.25 m/sです。使用重量は、1RMの60%にあたる50kgでこれを行っているのですが、次の段階として、もう少しウエイトを追加したより重いウエイトに対してこれまでの速度を超えるチャレンジをしています。その結果、55kgで2.98 m/sまで出せるようになりました。このスピードをさらに向上させること挑戦しているわけです。このように、私たちはある意味非常に特殊な空間でトレーニングをしています。
コーチングを補うために、GymAware Cloudをどのように使用していますか?
GymCloudによって、週のトレーニングをうまく組み立てることができます。GymCloudは、日々のトレーニングの結果をバックアップしてくれ、どのようにトレーニングが行われたかの統計データに簡単にアクセスできます。ですから、負荷をモニターすることができますし、トレーニングの傾向やパターンをチェックすることができます。私はGymCloudを使い始めたばかりなので、まだ、その全体や詳細を理解しようとしている段階ですが、すべての統計を実際に選手が行ったプログラムや選手のデータと合わせて分析することを結構楽しんでいます。
大会直前の1〜2週間前の準備をするにあたって、VBTでのアプローチをそれまでのやり方とどのように変えていますか?
陸上競技には、年間3ブロックの期間内にだいたい4つの主要な大会があり、その最後のブロックに例えば世界選手権やオーストラリア選手権といった最終的な2つの大会が来ます。今私が使っている方法は、比較的小さなテーパリングを行った後、シーズンの最終盤にむけてペンアルティメイトテーパーと呼んでいる最終的なテーパリングの期間を置きます。
私たちが行うテーパリングは、最終戦に向けて、その7~10日前から負荷を徐々に減らして行くというのが一般的です。しかし、私の指導している選手の中には、10日よりもう少し前からテーパリングに入りたいと思う選手もいますし、もっと短いテーパリングの方が調子がいいという選手もいます。また、選手によって試合の前日に少しトレーニングを行うのが好きな選手もいれば、試合の3〜4日前に行うのが好きな選手もいます。しかし、これはテーパリングの一部ですから、軽めの負荷で高速で行ういわば刺激を入れるためのセッションとなります。
いずれにせよ、試合に向けて量を落とし、強度は維持します。最終戦に向けては、7〜10日間にわたって25〜33%程度、負荷を減らしていきます。
シーズン中に試合と試合の間が空くようなときのテーパリングを行うためには、普通のトレーニングセッションを行う代わりに、刺激/試合週間と呼ぶセッションを用います。この刺激を入れるためのセッションは、非常に競技特異的で、量は少なく、強度は中くらいです。体を動かして試合の数日前に少し負荷をかけることがその目的です。要するに、高速で軽い負荷を用い、負担をかけないセッションにするわけです。
今、私たちにはGymAwareがありますから、このテーパリングを賢くモニタリングしながら進めることができ、トレーニング結果に基づいて挙上重量を決めることができます。試合の週の後、次の週末に試合がない限り、選手達は通常のプログラムに戻ります。
この考え方は変更されていませんが、GymAwareとGymCloudが使えるのでさらに的確なテーパリングを行うことができます。例えば、2月の試合を目前にしたある円盤投げの選手に対して、これまでであれば高重量で3レップするように、と指示するだけだったのですが、1RMの60%にあたる110kgのバックスクワットを、1.5 m/sで4レップ行うようにと指示することができました。
キャメロンの次の短期的な目標は何ですか? また、そのためのVBTプログラムをどのように構成していますか?
2020年3月以前の計画とCOVID-19による制限:
キャメロンは3月の終わりにブリスベン国際大会と全豪選手権に出場する予定でした。私たちとしては、ここで80mの記録を出すのを目標としていました。そしてそれは、投げ方のテクニックの微修正で達成できるはずでした。彼の速度とパワー出力は、確実に向上していましたから、それらをやり投のテクニックに転移させるだけでよかったのです。
キャメロンのプログラムは、やはり速度を基準としたものしたので、ほとんどの種目でGymAwareを使用していました。2019年の10月から12月のブロックと比べると、3月の大会に向けたプログラムは、彼のパワーを、やりを投げるということに対して可能な限り特異的なものとなるように、エクササイズ種目を変更し、量にも変更を加えました。繰り返しになりますが、やり投は絶対的なパワー発揮に依存しているため、最終盤に向かう時点でのVBTの特異性はマックスに到達させるのです。
私たちは、最大筋力を維持しそれを投擲に転移させるため、エクササイズを変更する必要がありました。具体的には、投擲時の左脚によるブロックのゆるみが股関節で見られたため、片脚での股関節と脚の筋力を補強するため、3レップ×5セットのブルガリアンスクワットに再び取り組むようにしました。このブルガリアンスクワットは、1セット実施した直後に5レップ×3セットのスプリットジャンプを行うというコントラスト法で行いました。
筋力のトレーニングと同じセットでパワーにも働きかけるというトレーニングをしたかったし、それに対するキャメロンの反応もよかったため、プルオーバーエクササイズなど、他の身体部位にもコントラストトレーニングを適用しました。別の例としては、やりのグリップに合わせた特殊なマルチバーによるインクラインプルオーバーを3レップ×4セットと、高速で行うダンベル交互プルオーバーの5レップ×3セット(左右)を組み合わせたコントラストトレーニングを実施しました。
他にも、バンドを用いて高速で行うスクワットジャンプを変更して、オーバーヘッドポジションで行う交互スプリットジャンプを深くまでしゃがんで8秒間で10レップ×4セットで行うエクサイズにしました。繰り返しになりますが、これらの変更は全てやり投に対するより高い特異性に基づいています。
主要リフティング種目はこれまで同様、2.5 m/s以上以上を目標とした、ハングスプリットスナッチとスプリットクリーン&ジャークを継続させました。ただ、これを6秒間に6レップ×4セットのまま取り組ませましたが、常に6レップという回数をキープさせるため、2レップや3レップの時より少しだけ軽いウェイトで行いました。
2020年2月以降のCOVID-19制限の下での計画:
ブリスベン国際および全豪選手権が延期そして結局中止となり、今シーズンが終了してしまったため、次の数か月間をどうするべきか、難しい課題に直面しています。そこで、今週末から、高重量を用いた高速の爆発的挙上を行うブロックに立ち返る予定です。
いつ試合が開催されるかについての見通しがつかないので、彼の最大筋力と最大パワー発揮の自己ベストを向上させるという考えでトレーニングブロックを進めていくことにしました。ピークパワー出力とピーク速度をGymAwareで計測して、キャメロンの最大筋力と最高速度の記録がどのようになるかを確認したいと思っています。
Dip、つまり沈み込みという指標は、多くの種目で可動域全体に渡って適切に負荷を掛けられているかどうかを確認するための不可欠な指標になると思い、注目しています。今年の競技シーズンがこの後どうなるかわからないので、私たちは、この冬から来年の春の試合シーズンに向けた新たなトレーニングの準備段階に戻ることにしました。
複数のサイクルが繰り返される長期のトレーニング期間についてはどのようにお考えですか? また来年以降の案はできていますか?
いつもどおりの計画であれば、2019/2020シーズンが終了した後、6月~7月に国際大会が開催される前に、より重い負荷を掛ける期に戻ります。そしてこの高重量でトレーニングする期間の後、次の試合期がいつになるかに応じて、ピーキングのための専門的トレーニング期に移行して行きます。しかし、キャメロンの場合、高重量期においても、パワートレーニングをより早くから開始し、シーズンが進むにつれてさらにそれを開発することができたので、今後も同じことを試していくつもりです。
陸上競技は幾つもの山と谷があるスポーツで、一般的なピリオダイゼーションを組むのが難しいので、筋力とパワーを向上させ続ける方法を常に模索しています。さまざまなエクササイズ、さまざまなトレーニングの量、そして筋力プログラムとパワープログラムの交錯するハイブリッドを使っているようなものです。ですから、私が考えた、筋力トレーニングとパワートレーニングを何回も周期的に入れ替えたり移行させたりするアプローチがうまく機能するのだといえるでしょう。
VBTプログラムの導入を検討しているコーチに対して何かアドバイスがあれば教えてください。
VBTプログラムを開始する以前に重要なことは、そのトレーニングによって何を達成したいかを理解し、VBTプログラムがスポーツパフォーマンスをどのように向上させるかを理解することです。 VBTプログラムを実施する際には、対象とするスポーツの物理的な構成要素について明確に理解することが重要です。改善しようとしているのが、速度、パワー、持久力、敏捷性などのどれであっても、VBTプログラムによって大幅に利益を得ることができます。VBTを実施する前に、いかにVBTをプログラムするか、そしてどのようなトレーニングが既に大きな成功を収めているかをよく知ることも大切です。
次に実際にVBTを取り入れた段階で重要なことは、あなたがスポーツに転移させたい生理学的適応が何なのかを正確に把握することです。パワートレーニングひとつ取っても、アイソトニック、バリスティック、プライオメトリックなど様々なタイプがあります。そうしたトレーニングによって転移させたいスポーツパフォーマンスがどのようなものなのかを把握することが大切です。投擲のような一瞬の爆発的な動作なのか、ラグビーでコンタクトした相手を押し切るような短時間であっても少し連続的な動作なのか、それとも40~60秒の長時間連続した動きのための解糖系の能力なのか、VBTによって改善したいパフォーマンスを正確に把握することです。おそらく、4〜5分以上にわたるスピードの向上を必要とする中距離または長距離のアスリートでも、VBTによってかなりの利益を得ることができると考えています。
つまり、VBTトレーニングのやり方にはいろいろな方法があるわけですが、私がお伝えできるのは、そのような概念のトレーニングから何を達成しようとしているかを正確に知ることの重要性です。
キャメロンの2020年の競技スケージュールはどのようなものですか。また、何を期待していますか?
キャメロンは、今シーズン、オーストラリアの国内および国際的な多くの試合や大会に出場することができました。現在、世界ランキングを上げるためにできるだけ多くのポイントを獲得しようとしています。彼はニュージーランドのオークランドで行われた国際大会で成功を収め、3月の終わりにブリスベンで国際大会があり、それに続いて全豪選手権が開催される予定でした。その時点では、この秋から冬の国際競技会の出場を考えていました。現在の目標記録は、80mを超えることです。
コロナウイルスの感染拡大によって、国際的なシーズンスケジュールが今後どうなるかはわかりませんが、6月から7月にかけて北クイーンズランドで国内大会の開催が予定されています。制限が緩和されれば出場できるかもしれませんから、そのための準備が必要です。 2021年は、ユニバーシアード、そして延期されたオリンピック、とキャメロンにとってより多くの出場機会が予定されています。さらに強くなって、80m~83mの記録が叩き出せるようになれば、東京オリンピック出場も夢ではありません。
アンガス・マッケンタイア
ハイパフォーマンスコーチ、シドニー
アンガスはカイロプラクター、パフォーマンスコーチであり、ニューサウスウェールズ、シドニーにあるAM Health&Performanceのオーナーです。 彼は陸上競技のS&Cコーチとして、国内および国際レベルのアスリートと共に活動しており、現在は陸上競技オーストラリアの国立アスリートサポートストラクチャー(NASS)、およびニューサウスウェールズスポーツ研究所の陸上競技プログラムのパーソナルコーチを務めています。 オセアニアチャンピオンシップでは、オーストラリア陸上競技ジュニアチームのコーチを務め、オーストラリアンフットボールリーグおよびラグビーユニオンのチームとスポーツカイロプラクターおよびパフォーマンスコーチとして活動してきました。
キャメロン・マッケンタイア
オーストラリア代表Javelin Thrower、SYDNEY
キャメロンは、マッコーリー大学で人間科学を専攻しています。現在21歳ですが、2015年の世界ユース選手権や2018年の世界ジュニア選手権でオーストラリアを代表するなど、エキサイティングなキャリアを積んでいます。ニューサウスウェールズスポーツおよびアスレチックスオーストラリアによるサポートアスリートでもあり、オーストラリア選手権のやり投でU13~U20まで、ジュニア時代のチャンピオンです。 2019/2020シーズンはオープンレベルでの彼の初陣でしたが、見事78.75mを記録し、オセアニア国際パーミット大会ではで表彰台に上がる成功を収めました。
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【訳者】
長谷川 昭彦
エスアンドシー株式会社 営業・企画
スポーツ科学修士・スポーツパフォーマンス分析スペシャリスト
長谷川裕
龍谷大学スポーツサイエンスコース教授
スポーツパフォーマンス分析協会会長
日本トレーニング指導者協会名誉会長
エスアンドシー株式会社代表