トレーニング指導者のためのパフォーマンス測定と評価#21 レーダーテクノロジー

お問い合わせはこちら

ブログ

トレーニング指導者のためのパフォーマンス測定と評価#21 レーダーシステム

2024/12/24

最新レーダーテクノロジーを用いたスプリントとアジリティーの測定・評価とトレーニング

記事はJATI EXPRESS No.104に掲載のものです。

PDFの取得はこちらから

【概要】

・ストップウォッチの問題点

・光電管計測の特徴

・光電管によるタイム計測の限界

・レーダーを用いたスピード(加速・減速)計測

・Ledsreactのデータからわかること

 

レーダーセンサーシステム「Ledsreact」の詳細はこちらから

より速く走れるようになりたい、より素早く方向転換できるようになりたいというアスリートの願いにどう向き合い、どう解決するか。専門職としてのトレーニング指導者の腕の見せ所だ。今回は、そのための最新テクノロジーによる測定・評価とトレーニングのモニタリングについて考えてみたい。

 

1.ストップウォッチの問題点

いかに速く走れるか、いかに素早く 方向転換できるのかという能力はトレ ーニング現場では長い間、手動のスト ップウォッチによって計測されてきま した。まだ多くの方がそうかもしれま せん。ストップウォッチで一定の距離 の移動に要するタイムを計測すること により、とりあえずは数値として個人 の評価を行ったり、トレーニングの進 捗や成果を確認したりすることができ ます。しかしストップウォッチには次 のような問題点が常に付きまとってい ます。

 

(1)信頼性と再現性

第1に、誰がいつ測るかによって数 値がばらつきます。目視と手動による ストップウォッチの操作ではあまりに も個人差が大きく、コントロール不可 能なランダムエラーに加えて測定者の 能力や癖といったシスタマティックエ ラーが付きまといます。ですから誰が いつ測るのかによって少なからぬ影響 を受けてしまいます。 (2)妥当性 第2に、ストップウォッチでは目視 で移動の瞬間に反応してスタートボタ ンを押し、移動するアスリートを目で 追ってゴールの瞬間に止めます。した がって実際の移動運動の瞬間から測定 者の反応時間だけ遅れて計測を開始し、 逆にゴールの瞬間は遅れないようにと いう動体予測の結果、実際よりも早く 止めてしまうリスクが付きまといます。 実際、光電管とストップウォッチを比 較した実験では、ストップウォッチは 光電管に比べて短いタイムを記録する 傾向にあることが明確にされています (図1)。この誤差は多くのスポーツ で必要とされる短い距離であればある ほど影響が大きくなります。

 

 

(3)選択的注意

 第3に、単なるタイム計測ではなく、アスリートの動作指導やトレーニングの一環として行う計測においては、指導者は計測の正確性を期するための動き出しや通過のタイミングに合わせた ストップウォッチの操作に注意を集中せざるを得ず、アスリートの動作全体 に対する注意深い観察をすることが困難となります。このことは選択的注意 による研究からも明らかです。 以上のことから、国民の運動能力の調査を主目的として作られた体力テストのような1/10秒単位の切り上げで行 われる50m走とは異なり、0.0何秒の差が勝負を決めるスポーツのパフォーマンスの客観的で信頼性と再現性の高い評価と日常的なトレーニング指導のための手段としてはストップウォッチではなく、光電管を使用することが必要とされてきています。

 

2.光電管計測の特徴

 従来の光電管タイム計測機器はケー ブルによる接続を必要とし、設置に長時間を要するものがほとんどでしたが 今日のものはほとんどがワイヤレス接 続により、手元の専用タイマーやスマ ホやタブレットですぐにデータを確認できるようになっています。機器自体軽量で持ち運びも簡単でいつでもどこでもさまざまな測定に手軽に利用できることから、アスリートだけにとどまらず、ジュニアを対象としたスポーツ教室や高齢者の運動指導においても、 客観的なデータをストレスなく得るために幅広く利用されています。その結果、ストップウォッチでは不可能だった評価が効率よくできるようになり、より高い指導効果をあげることができるようになっています。

 しかし便利な光電管もその特性をよ く理解して目的に応じた使い方と得られたデータの解釈をすることが大切です。

 

(1)計測開始のタイミング

 光電管は、向かい合った赤外線やレーザーによる一定の高さのビームを身体の一部が通過することでそのタイミングが計測されます。Wittyのような高精度光電センサーでは25000分の1秒の精度でこのタイミングをとらえ1/1000秒単位でデータを表示します(通常は1/100秒で使用することが多い)。

 そのため、ビームを身体のどこか一部が遮った時点でのタイム計測開始となりますから、それが腕の一部や脚の一部あるいは頭部なのか胴体なのかは区別することができません。野球の盗塁のスクエアスタンス姿勢のようにビームに対して身体を90度にして構える場合を除き、前方にスタートする場合、身体が前方に傾斜することにより不用意にビームを遮ってしまうことによる早すぎる計測開始を防ぐために、ビームよりも30~50cm後方に足を置いてスタートする方法が一般的に良いとされています。そのため実際の身体の一部の動き出しや身体重心の動き出した瞬間よりも計測開始のタイミングは遅れることになります。

 ただし、「ノーマリークローズド」という設定を用い、ビームの中に身体の一部を置いてあらかじめ遮られているビームから離れた瞬間に計測を開始するという方法を用いることで、足や手が地面から離れた瞬間や身体が移動した瞬間をとらえることができるようになります。

 チームの中の極端に背の低い選手がスタートゴールの下をくぐってスタートし、後方に振った腕がその後でビームを切るという現象が生じ、きわめてよい記録を出すこともあります。この場合、計測自体は問題なくできているため見過ごしてしまう可能性があるので注意が必要です。

(2)ゴールの設定

 陸上競技では頭・首・腕・脚を除いた胴体部分である「トルソー」がゴールラインに到達した時点によってゴールを判定するというルールがあります。この場合、手や頭によるビームの遮断で計時を止めることには問題が起こります。ビームが低いために脚による遮断も問題となります。

 そのためデュアルビームという2つのビームが同時に切られた瞬間に計測することで腕や脚だけには反応しないようにしたものや、フォルス信号処理によって、最後にビームを切った瞬間が胴体によるものだと判断してそこで計測するというシステムもあり、陸上競技のためのタイム計測としては重要視されています。

 通常のスプリントにおけるランニングと異なり、野球のベースに足が触れる瞬間(スライディングを含む)やバレーボールのネット上に手が出る瞬間、あるいは地上のボールに足が触れる瞬間のようなタイミング計測が必要な場合にも光電管をその位置に設置することで、胴体がビームを通過するタイミングを計測する一般的な計測とは異なる特異性を踏まえた目的で使用することもできます。

 このように光電センサーによるビームを身体の一部が遮断もしくはビームから離れるタイミングをもってスプリントやアジリティーの計測をするという特性を十分理解したうえで使用することにより、ストップウォッチでは全く不可能であったスポーツパフォーマンスの詳細な変化を正確に高い再現性でとらえることが可能となります。

 

3.光電管によるタイム計測の限界

 光電管によるタイム計測の普及により、スプリントやアジリティーのわずかな変化を高い信頼性でとらえることができるようになり、トレーニングによる能力のわずかな変動も的確にとらえることができるようになりました。これにより、単なる一時の評価にとどまらず、継続したトレーニング効果やコンディションの変化を追跡することができ、一瞬の差で勝負が決まるようなスポーツに必要な能力を詳細に分析できることで、より正しい判断や意思決定ができるようなりました。またこうした客観性と信頼性そして再現性により、コンディションのモニタリングにも活用されるようになっています。しかしこうした光電管計測にも限界があります。それは、タイム計測はあくまで一定の距離の移動に要する時間の計測でしかないということです。どんなに光電管を置く間隔を短く取ってもその距離には限界があり、また設置数にも限界があります。

 スポーツパフォーマンスにおけるスプリントスピードやアジリティーという能力は、そのすべてが陸上競技の短距離種目のように一定距離をいかに短い時間で移動するかを競うわけではありません。むしろ瞬間的にいかに短い時間で一定の速度に到達するか、最大どれくらいの速度を発揮できるのか、一定の速度にどれくらいの距離で到達できるのか、最大の減速能力はどれくらいなのか、方向転換をした後の再加速能力はどうなのか、といった点がパフォーマンスに大きく影響します。

 こうした瞬間的なスピードや加速・減速といった変化をとらえるためには光電管とは異なる新たなテクノロジーが必要となります。

 

4.レーダーを用いたスピード計測

 そこで新たに開発されたのが、レーダーを用いたスプリント&アジリティー計測システムです。

 これまでにも、ワイヤーを選手の腰に装着しそれを牽引したり牽引されたりすることでワイヤーの引き出しや巻き戻し速度からスプリント速度を連続的にとらえるシステムや、産業用に用いられているレーザー光線による速度計を用いてアスリートの背後にレーザーの焦点を合わせることでスプリント速度の変化をとらえるシステムはすでに存在していますが、今回新たに開発されたシステムは、身体に何も装着する必要がないため牽引による負荷は一切かかりません。トーイングによる加速も生じません。レーザーのアラインメント調整の必要もありません。小雨や霧によってレーザー光線が遮られる心配もいりません。測定から結果の表示そして分析までをシームレスに行えるよう、トレーニング現場においてスポーツパフォーマンスの評価とトレーニングに用いることを目的として、スイスのマイクロ波センサーを用いてベルギーで開発されたシステム、それが図2に示したLedsreact(レッズリアクト)という最新機器です。

 データ取得の基本原理はスピードガンと同様に、電波(マイクロ波)を対象物に向けて連続的に発射し、その反射波を測定することにより、対象物までの距離や方向そして移動スピードを連続的に測ります。前後方向だけではなく左右方向の運動も捉えます。

 レーダー周波数は24000Hzで、身体の全ての部位の移動運動をとらえ、この生データをドップラーFFTと呼ばれる変換アルゴリズムを用いて処理し、得られた位置・時間データをカルマンフィルターによってノイズ除去して約0.03秒ごとの身体重心の移動をスムージングします(図3)。

 1秒間に650フレームというハイスピードシャッターによる高精度3次元モーションキャプチャステムQualisysを用いてLedsreactの検証がおこなわれています。被験者の左肩、背中中央、右肩および腹部にマーカーを配置し、10mスプリントテスト、20mスプリントテスト、15-0-5方向転換走テスト、5-10-5テスト(プロアジリティー)、及びTテストについて検証が実施されました。その結果、平均誤差は、10mスプリントは0.031秒、20mスプリントで0.029秒、15-0-5方向転換走で170.055秒、5-10-5方向転換走で0.072秒、そしてTテストでは0.003でした。

 図4に10mスプリントの実際の比較データを示しています。ほぼ完全に同じスピードの変化をとらえていることがわかります。

 図5には、30mスプリントの最初の5m区間におけるタイムのWitty光電管システムとLedsreactのブランド-アルトマンプロットを示しています。平均誤差が-0.2秒あることがわかりますがそのばらつきは±1.96SDの許容範囲にあることがわかります。 

Wittyのほうが0.2秒早くなった理由は、その計測開始のタイミングによる差です。Ledsreactは、身体重心が動き始めた瞬間に計測を開始しますが、Wittyによる計測ではスタート位置から30cm前方に置かれたゲートのビームを切った時点から計測を開始します。その結果、どちらも5mを計測していることには違いないのですが、Wittyのほうはゲートを切る時点ですでに30cm前方移動しており、Ledsreactのように完全な静止姿勢からの計時ではないため短いタイムが計測されることになります。

 Ledsreactでは、スタート信号が発出されてから身体重心が動き始めるまでの反応時間も計測します。この反応時間は、WittyでSEMを同期させて測定される反応時間よりも短くなり、Witty+SEMによる反応時間が通常0.3秒以上となるのに対して、0.1秒台となります。その理由は上述したスタート位置とWittyゲートとの距離差(一般的には30~50cm)によるものです。

5.Ledsreactのデータからわかること

 スプリントにおける連続的な速度変化をとらえるということは、図6に示したようなスピード曲線をすぐに見ることができるということです。これは大学生サッカー選手の40mスプリントテストの結果です。バーグラフで示した5mごとの区間タイムはもちろん、スピード曲線からどの地点でどれくらいのスピードに到達しているか、トップスピードがどれくらいか、減速していないかといったことが直ちにわかります。グラフはインタラクティブになっておりドラッグすることで知りたい情報を直ちに得ることができます。この例では3m地点のスピードを調べています。

 加速度曲線も表示されますから、最大加速度というこれまでのタイム計測では決して知ることのできなかったけれどもアスリートのスプリント能力においてきわめて重要な特徴を知ることができます。右下には別の選手との比較が示されています。黒色で示した選手は20m地点でトップスピードに到達した後、減速してしまっていることがわかります。

 図7は15-0-5方向転換走の結果です。15mスプリントして180度方向転換し5m引き返すテストです。赤色で示したものは図5の40mスプリントの結果で示したチームの中で平均的なスプリント能力を持つ選手です。黒色で示した選手はチームの中でもGPSのデータで常に優れた加速・減速の回数と最大値を示している選手です。あきらかに大きな加速度で走り始め、大きな減速によって停止し方向転換した後も極めて大きな加速度で走り始めていることがよくわかります。

 このようなこれまでは推測の域をでなかった個々のアスリートのスプリントやアジリティーの特性が手に取るようにわかるということは、個々の選手の改善課題を明確にしてピンポイントでトレーニングを進めていくことができるということを意味します。

 こうしたデータがたった1台のデバイスを置くだけで直ちに取得でき、さらに複数名が同時に測定可能な機能を用いることで短時間に多人数のデータが取れることにより、定期的な評価の間隔を短縮することができ、これまで以上に詳しい個人特性を把握できるようになります。

 頻繁な測定がストレスなく行えることによって再現性が高まりますから、個人ごとのトレーニングするべき課題をより明確化でき、トレーニングの成果をさらに正確に確認できるようになります。

 またリハビリテーションにおいても「リターン・ツー・プレイ」の基準を単なる区間タイムだけではなく、加速と減速という運動機能に即して判断することができるようになります。

 Ledsreactには今回紹介した機能以外に4色のLEDライトを発出することでそれに反応するリアクティブアジリティーの評価とトレーニングも標準機能として備わっています。

 スプリントとアジリティーの測定とトレーニングはまた新たな時代に突入したと言えるでしょう。

LEDSREACTのホームページはこちらから!

https://sandccorporation.com/ledsreact

 

エスアンドシー株式会社

エスアンドシー株式会社

電話番号
075-741-8380
FAX番号
075-741-8381
所在地
〒604-0986
京都市中京区昆布屋町395高山ビル3F
営業時間
9:00~17:00
定休日
土日祝日